風景は記憶の順にできていく (集英社新書) 椎名誠 感想

風景は記憶の順にできていく (集英社新書) 椎名誠 感想

2015/02/19 23:27 neputa

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あらすじ

著者「椎名誠」がこれまで訪れた十二の町を再訪する。
変わった街、変わらない街。
訪ねた先々で過去の記憶をさかのぼり去来する思いを語る旅の記録。

読書感想

著者「椎名誠」について

「椎名誠」という人物のイメージはどんなものだろう。
一時期はテレビ番組やCMにも出演しており知っている人もいると思う。
大体のところとしては、「豪快」「大自然へ挑む冒険家」「ビール好き」「ジーンズが似合う」などであろうか。

著者の作品で初めて読んだのは「長く素晴らしく憂鬱な一日」という作品だ。
新宿を舞台に怪しげな主人公の「おれもしくはわたくしあるいはぼく」が、無気力に妄想を垂れ流しながら過ごす様子を描いている。
「狂人の作品」という印象でしかなかった。


後に読んだエッセイで、著者は鬱の気がありこの頃は特に酷かったと知る。
そのせいか、狂ったように世界を駆け回り大自然を求める姿は影の部分の反動のように見えた。
しかしそんな両極面が混ざり織りなすところが「椎名作品」の魅力だと思う。
彼のSF作品はその辺りがより顕著に表れる一つだ。



あらためて感想を

そんな「椎名誠」に旅はどんな影響を与えてきたのだろうか。
本作は国内十二の町を長い時を経て再訪する内容で、訪れた先は下記の通りである。
  • 浦安
  • 新橋・銀座
  • 武蔵野
  • 熱海
  • 中野
  • 神保町
  • 浅草
  • 四万十川
  • 石垣島の白保
  • 舟浮
  • 銚子
  • 新宿
浦安から始まり南の果てを経由して新宿で終わる旅。
場所の飛び方や関連性がハチャメチャだが椎名さんらしいと感じる。
そしてこれら地名を眺めるだけで著者の過去作があれこれ思い浮かび楽しくなってきた。

最初の町「浦安編」の冒頭で、著者が最も好きな町としてチリの「プンタアレーナス」について語っている。
ぼくはこの町にくると、そこから奥地へ行く旅に使う道具などを必ず「アギラ」という金物屋にいくのだが、
~(略)~
小さなボルトとナットを買う場合、ぼくはそれらが入っている棚の引き出しを正確に知っている。
日本からみるとちょうど地球の裏側にあたる小さな金物屋の棚の配列とその中身を知っている、というのはなんだか楽しい。
これは著者の出会った町との接し方を象徴するエピソードだと感じる。

著者は町を再訪するたびに過去をたどり、そして現在を見つめる。
過去をふり返るくだりではその当時に書いた作品に触れており、色々こちらも思い出して再読したい気持ちになる。
巧妙なステマだ。

訪れる場所によっては二十年ぶりといったところもあり、町自体も、かつてそこにいた人々も変化を遂げている。
時間は残酷なものであり、二度と出会うことが出来ない「人の死」を確かめる旅でもあったのが印象的だった。
今度の旅でひっそり理解したのは、風景の変化は案外しぶといけれど、それを眺め、モノを考える人間の命は、まるでもう一年ごとの折り紙細工のようにはかなく便り無く、結局はただの偶然で生かされているのにすぎない、という内なる確信だった。

少々本書の感想から逸れるが、後半の「西表島舟浮」でものすごく興味を引く話があった。
少々長いが個人的メモとして引用する。
この島がまったく未開の地に近かった頃、その深部に入り込んだ笹森儀助という人の『南嶋探験』(1・2巻、平凡社東洋文庫)がたいへん面白い。儀助は青森県弘前の在で、一八九三年に家族と死別の可能性も大きいこの単独探検に出発している。「余ハ已ニ決死ノ上途ナレハ外貌強テ壮快ヲ装フモ内実生別死別ヲ兼ネ血涙臆ヲ沾ス」という一文に誇張はないだろう。
~(略)~
儀助が初めて琉球の人と会ったときに「双方の言葉がいっさい通じなかった」という記述が面白い。
私は弘前に縁があり、雪深い土地から南端の西表島へ冒険したこの人物に一気に惹かれてしまった。
そして、家族との死別も覚悟して出かけて行き、現地に着いたら言葉が通じないという。
一人笑いをこらえるのに必死だった。


巡り巡って最後に新宿を訪れる。
著者が中心となり沢野ひとし氏や目黒考二氏らと立ち上げた「本の雑誌」社をふり返る場面があった。
最初に事務所を構えた場所の写真が掲載されているのだが、「見たことある写真だなぁ」とよく見ると、今住む場所の近所でびっくりした。
読後、本書を片手に出かけて行き写真と見比べとても充実した気分となる。
本の雑誌社 25年史

それにしても、どの町でも最後に著者は「これは進化だ!」「退化ではないか!?」と勝ち負けを言い、ウマそうにビールを飲む。
私は世界一うまいビールは自分で飲むビールより、著者が作中で飲んでいるビールだと、いつも思う。

変わったもの変わらないものに心を揺らしながらも、そこには変わらない椎名さんの姿があった。
久しぶりに椎名作品を再訪した私にとって、この風景が一番うれしかった。

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