ピスタチオ (ちくま文庫) 梨木香歩

ピスタチオ (ちくま文庫) 梨木香歩

2017/02/01 19:39 neputa

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あらすじ

  • 本書より引用
緑あふれる武蔵野にパートナーと老いた犬と暮らす棚(たな)。ライターを生業とする彼女に、ある日アフリカ取材の話が舞い込む。犬の病、カモの渡り、前線の通過、友人の死の知らせ……。 不思議な符号が起こりはじめ、何者かに導かれるようにアフリカへ。内戦の記憶の残る彼の地で、失った片割れを探すナカトと棚が出会ったものは。生命と死、水と風が循環する、原初の物語。

読書感想

読みどころ


  • 東京の武蔵野(吉祥寺、井之頭公園と思われる)で老犬と二人暮らしを送る女性「棚」が目に見えない言葉にできない多くを瑞々しく感じ取る様に魅せられる。
  • 棚が取材の仕事で訪れたアフリカ・ウガンダでは予想もしない生命に溢れたこの世界の根底に触れる旅であり未知なる読書体験が味わえる。
  • 本作のキーワードでもある「水」のように透明感があり非常に観念的な文章は絵画のような印象が強い。

主人公の名前は棚(たな)

東京で老犬と二人暮らしを送る「棚」。このなんとも名前としては聞きなれない名を名乗る棚はライター業を営む女性が本作の主人公である。
思えば、この名前が冒頭で語られた時点でこの作品が持つ不思議なつながりが始まっていたのだと読み終わってから気がつく。

棚というのはペンネームであり、本名は「翠」本作品のタイトル「ピスタチオ」の色と同じ音である。
前半は東京で飼っている老犬が病気になり手術や世話などに駆けまわったり、近所の公園の渡り鳥にあれこれと思いを巡らせたりとその後の展開が読めない日常が描かれている。
しかし、棚という人物の細かすぎるような鋭いようなその感受性は、私の知っている東京とは異なる空気を感じ取り、何気ない彼女の日常もどこか非日常的な雰囲気がある。

振り返って思えば彼女の名前以外に愛犬の病気や渡り鳥に巡らせる思いなどもすべてその後の展開への暗示となっていたことも大きな要因だったからであろうか。

なにもかもが異次元を感じさせるアフリカの旅

中盤からは棚がライターの仕事としてウガンダを取材することになり、一気にアフリカの大地を舞台とした話へと展開する。
棚はかつてアフリカに滞在経験があり、かつての友人との再会などを経てから偶然知り合った女性の双子を探す旅が始まる。

あらすじとしてはいたってシンプルではあるが、いくつもの点が綿々とつながっていく様子が非常に不思議さを醸し出す。そして独特の宗教観のあるアフリカが舞台であることから、運命や導きといった非科学的なものが、読んでいるうちにいつしか自然なものに感じられてくる。このトリップするような感覚を小説を通じて味わうことができるのは新鮮だ。

内戦と呪術的医療

ウガンダは内戦で多くの国民が苦しむ国であり、その様子は現実以外のなにものでもない。しかし、棚が双子の片割れを探す旅は、シャーマンのようなアフリカの呪術医療を営む者たちを巡るものであり、極めて現実的な内戦と極めて観念的な呪術の対比が凄まじい。

東京での描写もそうであったが、ウガンダの描写においても現実世界が非現実との境界を曖昧にしていくこの不思議な文章は何なのだろうかと、なんとも表しようのない感覚へと飲み込まれていく。

それは決して不快なものではない。
この世界のすべてに理由があり科学的に証明できるものとして人類は科学の道へ舵をきっていると思うのだが、この物語は、いや世界は水の手触りのようなものだと語りかけてくる。水のように掴みどころがないが存在しているものであると。

著者について

  • 本書より引用
梨木香歩(なしき・かほ)
1959年生まれ。 小説作品に『西の魔女が死んだ』『からくりからくさ』『家守綺譚』『村田エフェンディ滞土録』『沼地のある森を抜けて』『f植物園の巣穴』『僕は、そして僕たちはどう生きるか』『雪と珊瑚と』『冬虫夏草』『海うそ』など。エッセイに『春になったら苺を摘みに』『ぐるりのこと』『水辺にて』『渡りの足跡』『鳥と雲と薬草袋』などがある。

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