死のドレスを花婿に (文春文庫) ピエール・ルメートル (著)・ 吉田恒雄(訳) | 読書感想BLOG
死のドレスを花婿に (文春文庫) ピエール・ルメートル (著)・ 吉田恒雄(訳)

死のドレスを花婿に (文春文庫) ピエール・ルメートル (著)・ 吉田恒雄(訳)

2017/03/13 18:57 neputa

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「死のドレスを花婿に」のあらすじ

  • 本書より引用
ソフィーの目の前に転がる男児の無残な死体。ああ、私はついに人を殺してしまった。幸福だった彼女の破滅が始まったのは数年前。記憶にない奇行を繰り返し、彼女はおぞましい汚名を着て、底辺に転落したのだ……。 ベストセラー『その女アレックス』の原点。あなたの心を凍らせる衝撃と恐怖の傑作サスペンス。

「死のドレスを花婿に」の読書感想

※ネタバレを含みます。

読みどころ

  • ベストセラーとなった『その女アレックス』を彷彿させる主人公とストーリー展開を繰り広げるミステリ・サスペンス小説。
  • 子細に、執拗に、長きに渡って少しずつ人の人生を狂わせる、究極の胸糞の狂気性を持った復讐劇。
  • 狂気的な復讐、これ以上ない絶望、そして運命の逆転劇、予想をすべて裏切るピエール・ルメートルの作風が顕著に現れている。


『その女アレックス』へと続く絶望からの帰還ミステリー

最近立て続けにピエール・ルメートルの作品を読んでいる。
読んだのは『その女アレックス』を含む、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの3部作だったが、 本作はシリーズ外の作品である。

第1作『悲しみのイレーヌ』
第2作『その女アレックス』
第3作『傷だらけのカミーユ』
本作『死のドレスを花婿に』は、著者のデビュー作『悲しみのイレーヌ』と『その女アレックス』 の間に発表された作品で、その女アレックスの前身であると感じられる点が目立つ。

ひとつは女性が主人公であること、そしてその主人公が壮絶な悲劇に見舞われた運命から這い上がるストーリー性である。
その女アレックスとの比較としては、本作は登場人物たちの人間性は印象が薄く、シチュエーションやストーリー展開といった小説としての型枠が前面に出たものといった印象を受ける。
その女アレックスを先に読んでいたから余計にそう感じたのかもしれないが、主人公への「仕掛け」としては本作特有の要素となっており、これがまたぶっ飛んだ狂気っぷりである。

ソフィーとフランツ、自身の奇行に悩む女性と人生を狂わせる男

本作品は4部構成。第1部は「ソフィー」、主人公である若い女性「ソフィー」の日常がつづられる。
幸せを絵に描いたような彼女の人生、充実した仕事と出世していく優しき夫、そんな日々が少しずつ狂いだす。

注意深く確認し用意していたものが必要なタイミングで消え忘れたころに見つかる、送信したはずのメールの日付がおかしい(記憶していた日と違う)、停めておいた車が消え警察に届けると近所で見つかる。そしてそれは一度や二度のことではない。
自分は記憶障害なのではと疑い薬を飲むようになるが、だんだんと鬱っぽい傾向が強くなる。夫からは失望され、仕事も失う羽目にいたる。

そして少なからず憎んでいた継母が突然死に、夫も自殺、ついにはベビーシッターを引き受けた子供が気を失っている間に殺されている。殺したのは自分としか考えられない状況で。

ソフィーは本当に狂ってしまったのか、その答えは第2部の「フランツ」で明かされる。
精神科医であったソフィーの母に、病気であった自分の母を殺されたものと思い込んでいたフランツは、ソフィーの母がすでに故人であることを知り標的をソフィーに移し、復讐を始める。

第2部はフランツの日記、という構成なのだが、何年にもわたり辛抱強く、密かにひとりの女性の人生を微少に狂わせていく様子は読んでいて吐き気をもよおすものだった。
物を隠し、メールの日付をずらし、毎日服用する薬の中身を変えるなどなど。
これは狂気だ。だが冷静に、社会に十分に馴染んで怪しまれることもなく、長期にわたって実行し続ける。

物語の主人公はソフィーであるが、フランツのその突出した人格からインパクトはこの上なく大きかった。

悲劇しか残らない、そして悲劇の始まりははるか昔へと遡る


第3部はフランツとソフィー、そして第4部がソフィーとフランツ、題名が暗示するとおり、彼らの立場は逆転する。

いよいよ2人は直接対峙することとなる。第3部でフランツは計画通り彼女を追いこんでいき仕上げにかかろうとするのだが、些細なきっかけでソフィーが目覚め第4部が始まる。

非常にゆったりとした展開を見せていた1・2部から一転、後半は大きなうねりを見せながら一気に物語が展開する。この仕掛け具合は、これまで読んだ著者の作品同様、私はコテンパンに打ちのめされてしまった。

フランツの勘違い的思い込みから始まった悲劇の根源は彼自身のみにあらず、それは先々代の時代、戦争下における収容所の出来事から始まったことが透けて見える。
このちょっとしたエピソードが善悪の2言論的に見ることを遮る要素となり、読後感をより重苦しいものにしている。

著者・訳者について

  • 本書より引用
ピエール・ルメートル Pierre Lemaitre
1951年、パリに生まれる。教職を経て、2006年、カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ第1作 Travail soigne でデビュー、同作でコニャック・ミステリ大賞ほか4つのミステリ賞を受賞。シリーズ第2作『その女アレックス』は、イギリス推理作家協会賞を受賞したほか、日本で「このミステリーがすごい!」など4つのミステリ・ランキングで1位、本屋大賞翻訳小説部門で1位となり、ベストセラーとなった。本書は2009年に発表されたノンシリーズ作品。
吉田恒雄(よしだ・つねお)
1947(昭和22)年、千葉県生まれ。市川高校卒、フランス文学翻訳家。主な訳書にフランク・ティリエ『タルタロスの審問官』(ランダムハウス講談社)、モルガン・フポルテス『ゾルゲ 破滅のフーガ』(岩波書店)、ヤン・カルスキ『私はホロコーストを見た 黙殺された世紀の証言 1939-43』(白水社)などがある。
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