長く素晴らしく憂鬱な一日 (角川文庫) 椎名誠 あらすじと感想 | 読書感想BLOG
長く素晴らしく憂鬱な一日 (角川文庫) 椎名誠 あらすじと感想

長く素晴らしく憂鬱な一日 (角川文庫) 椎名誠 あらすじと感想

2017/08/06 17:14 neputa

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あらすじ

仕事場から見える「新宿」は、不気味だ。地下鉄駅に佇む「夕子」。蛇をポケットにしのばせる詩人。スピーカーを背中にしょって説教する男。そしてぬめぬめの「新宿シルクロード」を酒場に向かって無気力に旅する男たち―。「新宿」という街は、それら孤独や喧噪や疲労をものみ込んで、また立派な朝を迎えていく。虚実の間を鋭くかつ緩やかに描く現代の「都会の憂鬱」。椎名文学の一つの核ともいえる異色小説。(本書より引用)

読書感想

読みどころ

  • 大都会「新宿」を独特な文章で奇妙奇怪に描き出すエッセイのような私小説のような一作。
  • 豪快に世界中を駆け巡り大自然と冒険とビールが似合う男「椎名誠」のあまり知られていない一面に触れることができる。
  • うまいことハマれる人にとっては脳を激しく刺激する不思議なおクスリ効果があるかも。

ゆれる一人称の男の一日

本作を一言で言い表すならば「私小説」と言いたいところだがいまいちしっくりこない。
エッセイのようなだけど文学、いややはり「夢も妄想もだだ漏れノンフィクション小説」が的確ではなかろうか。

というのも、あまりにも脈絡のない唐突な出来事の連続であるこの小説は、おそらくこの頃の椎名氏自身の脳内に浮かんだものを、およそ脚色せずに書き散らしたものという印象があるからだ。

この作品のイメージを理解するには目次を眺めるのが一番であろう。
目次
三時の夕子とゴケアオミドロ
新宿シルクロードぬめぬめルート
クサカ・シノブは何時笑いますか
クソして死ぬべき人々
あついあぶらの中のレタスともやし
跳ね犬作太郎は何みて跳ねるか
妻のくれたかつをぶし
犬の夢ゾンビの夢
おれも女も海にむかった

一見なんのこっちゃであるが、すべてのタイトルに意味がある。

そして主人公は「おれもしくはわたくしあるいはぼく」。
状況によって一人称を変化させつつ、読者の前にそのむき出しの姿をさらけ出す男である。

この男(つまりシーナマコトのことだろう)が、新宿御苑の仕事場から飲み屋に寄ったり昔を思い出したりしながら新宿駅に向かい、そして家に帰って眠り起きるまでのごくごく短い時間軸の物語だ。

こう書くとごく平凡な話に思えるが先ほど引用した目次をよく見てほしい。
一筋縄ではいかない話であることが想像できることと思う。

もしあなたが精神科医やカウンセラーを生業とする方ならば、この男にいくつもの診断を下すことができるのではなかろうか。

はたまた人間科学などを研究する方ならば、人は一日のなかでこれほどまでに多くのことを考え、妄想し、感情を揺らしながらいきる生物だということを観察できるサンプルとなりえるのではないか。

そして、まだ感性が柔らかであったり想像力が豊かなあなたにとってはガツンとトリップさせてくれる混沌世界として映るかもしれない。

この作品との長いつきあいについて

私がこの作品を初めて読んだのは本書が発売された1990年ごろ、当時はまだ子供だった。

親が適当に買ってきた本のなかの一冊で、当時は特に深い印象をいだいた覚えはないのだが、気がつけばこれまでなんども繰り返し読んでいる。

その後、多くの椎名作品を読んできたなかで、なぜにこの作品がそんなにも私を惹きつる要因となったのか。

豪快で快活な印象の著者だが、当時ウツを患い医師を頼っていたという話を別のエッセイなどで読んだことがある。(どのエッセイだったかは申し訳ないが思い出せない)

彼が描き出す壮大なSF世界や、人間の心の最も純粋な部分をまじりっけなしに表現する文学作品などは、実は混沌としたカオスような著者の脳から反動的に生み出されているのかもしれない。そんな思いを強くしたのがこの作品だった。

本人にとっては苦しくつらい部分ではあるかもしれないが、椎名誠という作家のたいせつな部分に触れた気持ちになる。

作品の世界観や不思議な文体などほかにも魅力はあるのだが、それがもっとも大きな理由のような気がしている。

沢野ひとしの絵について

この混沌にさらなる混沌を加えるのが沢野ひとし氏のイラストだ。

作中ところどころにぶっ込まれているサワノ絵はこの作品のカオス度をブーストする役割を果たしている。

読み手の脳みそを強烈な勢いでかき回してくるその破壊力たるや。

椎名誠の文章と、沢野ひとしのイラストは出版界における日本屈指のとんでもないコンビだと思う。

沢野絵の謎ー旅する文学館


著者について

椎名誠
1944年東京生まれ。 1979年より、小説、エッセイ、ルポ等の作家活動に入りました。 これまでの主な作品は、『犬の系譜』(講談社)、『岳(ガク)物語』(集英社)、『アド・バード』(集英社)、『中国の鳥人』(新潮社)、『黄金時代』(文藝春秋)など。最新刊は、『絵本たんけん隊』(クレヨンハウス)、『かえっていく場所』(集英社)、『モヤシ』(講談社)、『いっぽん海ヘビトンボ漂読記』(本の雑誌社)。エッセイは、週刊文春連載中の、赤マントシリーズが10年以上続いています。旅の本も数多く、モンゴルやパタゴニア、シベリアなどへの探検、冒険ものなどを書いています。
趣味は焚火キャンプ、どこか遠くへ行くこと。(WEB本の雑誌・作家の読書道より引用)
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