Iターン 福澤徹三 (文春文庫)ー あらすじと感想

Iターン 福澤徹三 (文春文庫)ー あらすじと感想

2017/11/08 18:34 neputa

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あらすじ

広告代理店の冴えない営業マン・狛江が単身赴任したのは、リストラ対象の北九州支店。思わぬトラブルでやくざに絡まれ、大借金のうえ身売りの大ピンチに。鉄拳の雨と禁断のレバ刺し、爆弾を抱えたダイ・ハードな日常。生き地獄に陥った男のI(=自分)ターンとは!? 血圧上昇、リーマン・ノワールの傑作! 解説・木内昇

読書感想

読みどころ

  • 暴力・恐喝なんでもござれの修羅の国「北九州」。この町の真実がいま明かされる。
  • 会社では同期入社の上司にいいように使われ家庭ではATM扱い。悲哀に満ちた中年サラリーマンが主人公。
  • 極道と堅気、実際にあこぎなのはどっち?などいろいろ考えさせられる人間模様。仁義をとおす中年リーマンによる痛快逆転劇。

リーマンはつらいよ

主人公は「狛江」というサラリーマン。2人の子供と妻がいる。
絶賛下降気味の広告代理店で働く彼の肩には住宅ローンと養育費が重くのしかかる。

会社の上司(副社長の娘との結婚で出世した同期)にはいいようにこき使われ、家庭では薄くなった頭を指してザビエル呼ばわりされるATM。哀愁ただよう47歳だ。

とくに取り柄のない彼は下火の会社になんとかしがみついて来たが、とうとう左遷の辞令が下される。

社員は自分を含めて3人のみ。
閉鎖目前の地方支店長というなんの旨みもない役職。
そして勤務地は修羅の国「北九州」。

成人の日には絶滅危惧となりつつあるヤンキーの方々が全国中継され、ネットでは「治安悪い」「キケン」といったキーワードが検索候補にあがることでお馴染みの土地だ。

そして本書のタイトルは「Iターン」。
逝って来いである。

どんな感じかはカバーイラストがすべてを物語っている。

Iターン 福澤徹三(文春文庫)カバー
出典:Iターン 福澤徹三(文春文庫)

カバーイラストと作品内容のシンクロ率が200%超え。

そして北九州がどんな場所であるのか。

それはこの地出である著者の写真をご覧頂くのがいちばんだ。

著者近影
出典:福澤徹三 『ジューン・ブラッド』特設サイト|Webマガジン幻冬舎

「あんたが持つのはペンじゃなくてドスだろう!」とツッコみたくなる男前。

この2枚の画像で作品の世界観はお判りいただけたのではないか。
※注 ドス…鍔の無い日本刀

狛江(47)という男、修羅の地でカモられる

彼は放り投げた缶のはね返る先から人生の大一番の決断までありとあらゆるレベルで裏目を引く男だ。

「なぜそっち!?」という具合に宝くじが毎日当選する勢いで針の穴を突くようなマイナスを見事に引き当てる。

小心で妻に言われて酒もタバコもやめ一見マジメそうだが何をやるにも度胸がないだけとも言える。

極道の方々

北九州の雰囲気は著者近影でお分かりいただいたと思うが狛江は転勤してすぐにそんな町のあまり法律を気にかけない方々の洗礼を受ける。

物語始まってすぐにサクッと借金600万円の多重債務者となる。

発端は支店の顧客である街金の広告でトラブルを起こしたこと。そして、そこは不運にも「竜崎」という企業舎弟が経営する会社だった。
この男はインテリヤクザといった風情で初めからどうにも好かない。

そして更に狛江はダイソン並みの吸引力で不運を引き寄せる。竜崎と反目するグループも巻き込んでしまうのだ。

そのグループは「岩切」という粗暴で威圧的だが昔ながらの仁義を重んじる男が仕切る組織である。

狛江はこの2つのグループに相当理不尽なやり口で借金を負わされてしまい、返済のため無理やり岩切の舎弟にされる。

近頃は副業OKの会社も増えたと聞くが彼の場合は「週末ヤクザ」だ。

西尾が作品に深みを与える

そして登場したヤクザで特にお気に入りだったのは(お気に入りのヤクザってなんだ?)「西尾」という岩切の補佐役である。

有名私大卒という異色の経歴を持つこの若者は知識も豊富だ。

返済目途が立たない当初、狛江は岩切にベーリング海峡のカニ漁をする船にぶち込まれそうになる。西尾はすかさず「ベーリング海峡は低気圧の墓場って呼ばれているそうです」と、何の役にも立たない嬉しくない情報をそっと耳打ちしてくる。

そんなお茶目な西尾だが、彼は時にこちらがハッとなるセリフをつぶやく。
「そもそも、他人に迷惑をかけていない人間なんか存在しません。迷惑をかけていないと思いこんでいる人間はたくさんいますが」
「彼らの正義とは、単に多数派に便乗することです。あるいは、自分よりいい思いをしていそうな者への嫉妬です。自分が逆の立場だったら、やらざるを得ないことに想像力がおよばないひとたちです」
「ここに悪い奴がいるって、看板をあげてたほうが健全なんですが」
この若き極道は冷静に社会を見つめている。

彼との対話を通じて狛江は極道の世界に対し、ある意味理解を示し始める。

筋を通せば道は開ける

ドタバタとサラリーマンとしても舎弟としても未熟な狛江だが、岩切や彼の子分たちと修羅場をくぐり抜けていくたびに少しずつ変わっていく。

当初なにもかも気に入らなかったこの町にも慣れていった。
苦手だったとんこつラーメンも、岩切とカチコミをしたあとの一杯では「うまい!」と叫ぶ。

この叫びは、北九州という町、極道の世界、そしてサラリーマン狛江がみごとにバランスする瞬間を示しているように感じた。

47歳で修羅の国に立たされヤクザにもまれる人生なんて実際どうかとは思うのだが、それでひと周りもふた周りも大きくなった狛江の姿には胸がスッとした。

と同時に意識的にではなく偶然に負うところもあったが結果として筋を通した狛江は偉いなと思う。そして、そういう人間たちに拍手を送る物語構成もまたよかった。

これはそのまま著者による社会に対する目線なのかもしれない。

久々にスカッとする気持ちのよい作品だった。

著者について

福澤徹三(ふくざわ・てつぞう)
1962年福岡県北九州市生まれ。デザイナー、コピーライター、専門学校講師を経て、作家活動に入る。『すじぼり』(角川書店刊)で第10回大藪春彦賞を受賞。近作に『ジューン・ブラッド』(幻冬舎刊)、『俺たちに偏差値はない。ガチバカ高校リターンズ』(徳間書店刊)など。怪談にも造詣が深く、『会談実話 盛り塩のある家』(メディアファクトリー刊)など多数の著書がある。
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