【読書感想・小説】西の魔女が死んだ 梨木香歩 (新潮文庫)

【読書感想・小説】西の魔女が死んだ 梨木香歩 (新潮文庫)

2018/04/04 16:51 neputa

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あらすじ

  • 本書より引用
中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女まいは、季節が初夏へと移り変わるひと月あまりを、西の魔女のもとで過ごした。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも……。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。

読書感想

読みどころ

  • 中学に入り学校に行けなくなった少女が、大好きなおばあちゃんと過ごした1ヶ月を回想する物語。
  • 代々「魔女」としての素質を受け継ぐ家系だというおばあちゃん。「魔女修行」と称し、おばあちゃんからまいが学んだことは、その後の人生において大切なことだらけだった。
  • おばあちゃんの最後のメッセージは、涙と笑顔が止まらなくなる。

登場人物

加納まい………中学に入ったばかりの少女。入学早々、登校を拒否するようになり、一ヶ月ほどおばあちゃんの家で暮らすようになる。
おばあちゃん…やさしいまいのおばあちゃん。英国出身。実は「魔女」という噂も。
おじいちゃん…既に亡くなっている。生前は理科の教師で鉱石に興味を持っていた。
おかあさん……独立心が高く、実母のおばあちゃにやや反発気味。だが誰よりも彼女を愛している。
おとうさん……単身赴任で家族と離れて暮らしている。
ゲンジさん……おばあちゃんの隣人。粗野な振る舞いが、まいを傷つける。

※若干ネタバレを含みます。

あるエッセイから本作にたどり着いた

以前、同著者の『春になったら苺を摘みに』というエッセイを読んだ。英国で若かりし日々を送った著者の回想が主な内容であり、特にお世話になった下宿先のご主人、ウエスト夫人の存在がいかに彼女に影響を与えたかを綴っていた。

あらすじ 「理解はできないが、受け容れる」それがウェスト夫人の生き方だった。「私」が学生時代を過ごした英国の下宿には、女主人ウェスト夫人と、…

本作の「おばあちゃん」は、頭のなかで、すぐさまウエスト夫人と結びつく。そして「まい」は、幼かった頃の著者なのだろう。そう脳内変換処理をおこない読み進めていった。

「西の魔女が死んだ」と「渡りの一日』

主人公の「まい」は中学生。そして母方の祖母は、若い頃に英国から日本に移り住んできた人物で、理科教師だった夫を亡くし、人里離れた自然豊かな場所でひとりで暮らしていた。物語はおばあちゃんが亡くなった知らせを受けるところから始まる。

2年前、中学に入学したばかりのまいは、新しい環境に馴染むことができず、早々に登校拒否となった。母の提案で学校を離れおばあちゃんの家で過ごすことになった。

亡くなったおばあちゃんの家に向かう道すがら、まいは、2年前におばあちゃんと過ごした1ヶ月が、いかにかけがえのない時間であったかを思い起こす。

冒頭で既に亡くなってしまったことが告げられ、その後に戻ってくることのないキラキラと美しい時間を展開していく手法は、悲しみを何倍にも増幅する効果がある。ずるい。

このやわらかく、とても大切だった時間をたどる部分が本編となる「西の魔女が死んだ」、そしてその後のまいを描いた「渡りの一日」の2編が収められている。

まいのおばあちゃんが魅力的

おばあちゃんが、とっても素敵な人だ。ただそのことを知るための作品だったと言っても過言ではない。魅力に満ち満ちた人物である。

おばあちゃんの家系は代々「魔女」としての素質があるという。そして、おばあちゃんと暮らしは、まいにとって魔女修行を兼ねることになる。「自分で決めること」は魔女になるために重要な項目であるそうな。

「思春期」という、味方によっては非常に残酷な時間でもあるが、まいはおばあちゃんの大きな愛によって救われる。そして、はるか昔に思春期を終えた私をも救ってくれた。

おばあちゃんによる「魔女修行」は、ハリー・ポッターのような手を振れずにモノを動かしたりする類のものではない。同じ時間に起きて眠り、生きるために必要な家事のために汗を流し、勉強をすることで「学校の存在」と向き合う時間を設ける。そして「自分で決める」ことが何よりも大事。

大きな悩みを抱え苦しんでいるときに、お皿を洗ったり、洗濯をしたりといった単調な家事という行為は、かなりの確率で心を軽くしてくれる。先人たちが無数に繰り返してきたこの行為には、ある種の神聖さを感じることがある。

おばあちゃんは、生きていくために大切な振る舞いを、ひとつひとつ丁寧にまいに教えてくれる。

おばあちゃんの「アイ・ノウ」が大好きだ。この言葉には、「わかっている」以上に、「あなたのことをちゃんと受け入れているよ」といった深い愛情表現を内包してるような響きがある。

「おばあちゃん、大好き」
「アイ・ノウ」

なんと優しい瞬間なのだろう。

梨木さんの文章を読んでいると、それが何気ない場面であってもふと泣きたいような気持ちになることがある。それは、苦しいとか辛いとかではなく、じんわりとした暖かさを帯びた切ない感情である。

この物語はおとぎ話やきれい事ではなく、生と死としっかりと向き合い、自分の人生を考えることを促してくれる。そして、最後までユーモアを忘れなかったおばあちゃんは、まいと読者の魂を解放してくれる。

思春期ど真ん中の人、あるいは少し心が疲れてしまった大人の方には特に響くのではなかろうか。

おばあちゃん語録

作中で特に心に残ったおばあちゃんの言葉を備忘録。
「まいにも、人にみせたくないものはあるでしょう」
「人は大人になろうとするとき、そういうものがどんどん増えていくんです」
「人の運命っていろんな伏線で織りなされていくものなでしょうね」
「ある秩序の支配している社会では、その秩序の枠にはまらない力は排斥される運命にあったのです」
「いちばん大事なことは自分で見ようとしたり、聞こうとする意思の力ですよ。自分で見ようともしないのに何かが見えたり、聞こえたりするのはとても危険ですし、不快なことですし、一流の魔女にあるまじきことです」
「魂は身体をもつことによってしか物事を体験できないし、体験によってしか、魂は成長できないんですよ」


映像作品について

本作は1994年に出版された作品だが、2008年に監督:長崎俊一により映像化されている。


著者について

  • 本書より引用
梨木香歩 Nashiki Kaho
1959年(昭和34)年生れ。小説に『西の魔女が死んだ』『丹生都比売(におつひめ)』『エンジェル エンジェル エンジェル』『裏庭』『からくりからくさ』『りかさん』『家守綺譚』『村田エフェンディ帯土録』『沼地のある森を抜けて』『ピスタチオ』『僕は、そして僕たちはどう生きるか』『雪と珊瑚と』『冬虫夏草』『海うそ』『岸辺のヤービ』など、またエッセイに『春になったら苺を摘みに』『ぐるりのこと』『渡りの足跡』『不思議な羅針盤』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』などがある。

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