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『特捜部Q カルテ番号64』 ~デンマーク発のミステリーシリーズ~ 【読書感想・あらすじ】

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あらすじ

未解決だった難事件を次々と解決、やっと日の目を見つつある特捜部Q。だが捜査を待つ事件は増えるばかりだ。そんななか、特捜部の紅一点ローセが掘り起こしてきたのは、20年以上前にエスコート・クラブの経営者リタが忽然と姿を消した奇妙な事件。しかもリタとほぼ同時に失踪した者が、他にも5人いることが判明し……。 デンマークの代表的文学賞「金の月桂樹」賞を受賞、ますます波に乗る大人気警察小説シリーズ第4弾!
――本書より引用

読書感想

『特捜部Q―カルテ番号64―』の読みどころ

  • デンマークを舞台に繰り広げる警察ミステリシリーズの第4作目。
  • 個性豊かなメンバーの軽妙なやり取りと、深刻な事件とのコントラストが本シリーズの大きな魅力のひとつ。
  • デンマークにかつて存在した女性収容所が物語の背景として描かれており、どこの国でも存在する優生思想について大きく考えさせられる作品。

デンマーク発の警察ミステリ・シリーズ第四作

タイトルの「特捜部Q」は、デンマークにおける過去の未解決事件のみを対象に捜査を行う特殊な捜査部門である。コペンハーゲンのシティ署の地下にあるこの部署には個性的な面々がそろっており、彼らはそれぞれの強みを生かし、デンマークの闇に埋もれていた過去の事件を掘り起こしていく。

過去三作のいずれも素晴らしかったのだが、今作はこれまで以上に楽しめる作品となっている。

特捜部Q―檻の中の女― (ハヤカワ・ミステリ文庫) ユッシ・エーズラ・オールスン (著)・ 吉田奈保子 (訳) | neputa note

特捜部Q―檻の中の女― (ユッシ・エーズラ・オールスン) のあらすじと感想。捜査への情熱をすっかり失っていたコペンハーゲン警察のはみ出し刑事カール・マークは新設部署の統率を命じられた。とはいってもオフィスは窓もない地下室、部下はシリア系の変人アサドの一人だけだったが。未解決の重大事件を専門に扱う「特捜部Q」は、こうして誕生した。まずは自殺と片付けられていた女性議員失踪事件の再調査に着手したが、次々と驚きの新事実が明らかに! デンマーク発の警察小説シリーズ第一弾!。北欧デンマークを舞台にした警察ミステリ小説。シリーズもの第一作目。クセのある有能刑事と謎多きシリア人アシスタントのコンビが魅せる。埋もれていた未解決事件が徐々に明らかになるサスペンスストーリーは必見。

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特捜部Q―キジ殺し― (ハヤカワ・ミステリ文庫) ユッシ・エーズラ・オールスン (著) / 吉田薫・福原美穂子 (訳) | neputa note

特捜部Q―キジ殺し― (ユッシ・エーズラ・オールスン) あらすじと感想。いったいこの書類はどこから送られてきたんだ? いつのまにか特捜部Qのデスクに置かれていた20年も前の事件の書類。18歳と17歳の兄妹が惨殺された事件だが、その後犯人は自首して服役中。つまり未解決事件ではない。なのになぜ未解決事件を調査する特捜部Qに? 興味を抱いたカールとアサド、それに新メンバーのローセは再調査に取り組むが、当時の容疑者たちはいまや有力者に……ますますパワーアップの人気シリーズ第2弾 小説を読んでの感想。 未解決事件を専門に捜査を行う「特捜部Q」が、デンマークにおける特権階級の闇を暴く長編ミステリ小説。シリーズ第2作目にして新メンバが新たに加わったが……、やはり変人だった。著者近影の写真から漏れ伝わってくるとおり、前作に引き続き事件における暴力性が凄まじい。ネタばれを含む特捜部Qシリーズ第2作目の感想本作品は、デンマークにおける未解決事件を解決するという名目で、半ば強引に設けられた「特捜部Q」という微妙な名前の捜査本部が活躍するミステリ作品である。そしてシリーズものとして続いており、このあたりの経緯は前作の第1作目で詳しく語られている。

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特捜部Q ―Pからのメッセージ― 上下巻 ユッシ・エーズラ・オールスン 吉田薫・福原美穂子訳 (ハヤカワ・ミステリ文庫) ー あらすじと感想 | neputa note

特捜部Q ―Pからのメッセージ― 上下巻 ユッシ・エーズラ・オールスン ー あらすじと感想その手紙は、ビンに収められたまま何年間も海中にあり、引き揚げられてからもすっかり忘れ去られていた。だがスコットランド警察からはるばる特捜部Qへとその手紙が届いたとき、捜査の歯車が動き出す。手紙の冒頭には悲痛な叫びが記されていたのだ。「助けて」いまひとつ乗り気でないカールをよそに、二人の助手アサドとローセは判読不明のメッセージに取り組む。やがておぼろげながら、恐るべき犯罪の存在が明らかに……読みどころ未解決事件を専門に捜査を行う「特捜部Q」シリーズの第三作目で北欧最高のミステリ賞「ガラスの鍵賞」受賞作。切れ味鋭い捜査と皮肉がトレードマークの「カール・マーク」を筆頭に個性あふれるいつものメンバーたちのやり取りは毎度楽しませてくれる。古い事件の端緒のつかみから現在進行形の事件へとつながっていく展開は非常にスリリング。

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シリーズならではの魅力について

ピンポイントで不幸を引き当てる才能に長けたニヒルなリーダー「カール・マーク」、謎多きアシスタントの「アサド」、多重人格の疑いがある同じくアシスタント「ローサ」、以上三名が特捜部Qのメンバである。

彼らのやり取りはこのシリーズにおけるお約束のようなもので、物語に安定感をもたらしている。

また特捜部Qが取り組む「未解決事件」とはつまり、解決に至らなかっただけの理由があるわけであり、いずれも難解かつ根が深い。これをうまいこと物語に展開できれば面白くないわけがない。

今作「カルテ番号64」の特徴

特筆すべきは、ストーリー展開が巧みになっていること、デンマークの闇ともいえる実在の出来事が背景にあることの二点ではなかろうか。

まずストーリー展開についてだが、過去の未解決事件を捜査するとはつまり、現在、過去の事件発生当時、そしてその事件を引き起こすにいたるさらに過去という三つの時間軸で構成されることとなる。

シリーズの第一作目からこの三つの時間軸による構成というのは行われているのだが、今回の、特に下巻以降、非常に練られた構成で展開しており、複雑怪奇な当事者たちの命運渦巻く物語の世界に、こちらをぐいぐいと引き込んでくれた。

もうひとつの今作の背景となった実在の出来事とは、かつてデンマークには断種法があり、今作の舞台であるスプロー島に女性収容所が存在していたことである。
これはいわゆる優生思想にもとづき、女性を選別し断種措置を強制的に行ったというデンマークの黒歴史である。

優生思想についてもう少し

最近、日本でも「旧優生保護法」という悪法により犠牲となった人々の話がニュースとして報じられている。


旧優生保護法 強制不妊の宮城県の男性2人が追加提訴 - 毎日新聞

 旧優生保護法(1948~96年)下で不妊手術を強制されたとして、宮城県内に住む70代と80代の男性2人が17日、国に損害賠償を求めて仙台地裁へ提訴した。一連の国家賠償請求訴訟を巡る提訴者は同県内で5人、全国で15人となった。男性2人は提訴後に仙台市内で記者会見し、「何も知らされずに勝手に手術された

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そして、国連が毎年発表する国別幸福度ランキング上位常連であるデンマークといえども、悪しき法により人を選別していた過去があったのだ。(ちなみにデンマークでは被害者への謝罪、補償は行われていないと著者が巻末で述べている。~本作出版時点~)

そこに人間が暮らし社会が存在する限り、ユートピアは存在しないということなのかもしれない。ただ、優生思想に限らず、人種間・国家間で起きた差別の行きつく先は戦争・紛争であることを歴史が証明している。

歴史は繰り返す、これは摂理であり避けることはできないのであろう。特に昨今は国家間で不寛容さをむき出しにする姿が目立つ。だが、ほんとうに人間に知恵があるというのならば、繰り返される悲劇は、以前に比べていくらか小さくなることを期待したい。それぐらいの希望がなければ生きていけない。

考えさせられる本作の主題について

今作の事件のきっかけは、時代と国家によって人生を切り刻まれてしまったニーデ・ローセンという女性による復讐劇である。だがこの復讐劇を生み出すそもそもの要因は、先に述べた優生思想による国家政策だ。

過去の作品にも増して救いようのない気持ちになる読後感であったが、誰しも避けることができないテーマを掲げた作品であり、特に今の時代に読む価値は大きいと感じた一冊だった。


映像作品について

この「特捜部Qシリーズ」は映像化も順次されており、「カルテ番号64」もオンデマンド等で視聴することができる。

原作の世界観を損なうことなくうまいこと映画作品に仕立てており楽しめると思う。

著者・訳者について

著者 ユッシ・エーズラ・オールスン
1950年、コペンハーゲン生まれ。10代後半から薬学や映画製作などを学び、出版業界などで働く。1985年からはコミックやコメディの研究書を執筆。その後フィクションに転じ、シリーズ第1作の『特捜部Q―檻の中の女―』(2007年)がベストセラーとなった。その後、2009年に発表したシリーズ第3作『特捜部Q―Pからのメッセージ―』で、北欧ミステリ賞の最高峰である「ガラスの鍵」賞を受賞している。シリーズ第4作の本書(2010年)は、デンマークの文学賞「金の月桂樹」賞を受賞した。
――本書より引用
訳者 吉田薫
関西大学文学部ドイツ文学科卒、英米文学・ドイツ文学翻訳家 訳書『特捜部Q―キジ殺し―』『特捜部Q―Pからのメッセージ―』エーズラ・オールスン(共訳)(以上早川書房刊)他。
――本書より引用

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