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あらすじ

  • 本書より引用
真面目さゆえに他人に振り回されがちな真島。バツイチの冴えない研究者、繁田。彼女のキツイ束縛に悩む、愛想のよさが取り柄の仲杉。少し変わり者の超絶イケメン、斉木。友人でなく、仲良しでもないのに、なぜか一緒に旅に出る四人。その先で待つ、それぞれの再会、別れ、奇跡。他人の事情に踏み込みすぎない男たちの、つかず離れずな距離感が心地好い連作短編集!

敬語で旅する四人の男 麻宮ゆり子 (光文社文庫)

※Amazonは電子書籍版あります。

あらすじ

ひょんなことからやくざの組事務所に出入りすることになった大学生の亮。そこは個性豊かな面々がとぐろをまく強烈な世界だった。就職先もなく、将来が見えないことに苛立ちを感じていた亮は、アウトローの男たちに少しずつ心ひかれていく。しかし、時代に取り残された昔ながらの組には、最大の危機が訪れようとしていた。人生をドロップアウトしかけた青年の一夏の熱くたぎる成長ドラマを描いた第10回大藪春彦賞受賞作。

読書感想

読みどころ

  • 任侠、ホラー作品などで活躍する著者のデビュー作。大藪春彦賞受賞作品。
  • 自身の故郷「北九州」を舞台に極道の男たちに巻き込まれながら成長していく少年の青春活劇。
  • 本作単体ではやや物足りなさもあるが、後の作品につながる原点として読むと興味深い。

青春時代の終わりに向かって駆け抜けるストーリー

主人公は「滝川亮」。

大学生活も終わりが近いが就職先は決まらない。恋をし将来への不安を抱くもなにもできやしない。

退屈や不満が常に横たわる日々のウサを晴らそうとしょうもないことに手を出す。

まさに「ザ・青春」といえるシチュエーション。

ひとつ特徴をあげるならばその土地柄か。身近に堅気ではない者たちがいることだろう。

絵に書いたような青春の日々に「極道」というスパイスを加えたスリリングな青春物語である。

ヤクザが身近な町

亮は友達と町のクラブが裏で販売する大麻を盗み出す。
店のバックにはその筋の組がついており大事となる。

クラブの連中に追われ亮が駆け込んだ店で偶然出会った速水という男に助けられる。
だが彼はまた別の組を率いる極道だった。
これを機に亮は速水率いる速水総業でアルバイトをするようになる。

若いうちはろくでもないことをしでかす。ただそれが町によっては出てくるのが虎だったりする場合もあるのかもしれない。

しかし亮にとっては退屈だった日常を抜け出すキッカケであると同時に、若くして他では得られない多くを経験する道へ進むことになる。

「善」と「悪」について

速水総業は昔気質の組であり、そこでは多くの示唆に富むシーンが特に前半に多く描かれる。

これは先日読んだ「Iターン」という作品に共通するもので、もしかしたらこの辺りから語られることは著者の常日頃からの思いなのかもしれない。
速水の組は亮が盗みをしたクラブのケツ持ちのである側の金光という男を殺す。
死体をダムに沈めるが水不足で金光の死体があがり、やがて刑事が速水総業へとやってきた。

そこで速水と若い刑事による問答のような対話が交わされる。

その対話から「善悪とはなんだろう」と亮は考えることになる。


以前「異常とは何か」という本を読んだ。
有史以降の人類の記録を振り返り観測してみると、異常や異端とされる対象は、現在にかけていかに変化してきたかを知ることができる本だ。
善悪も同様に変化しうる、人間たちによる価値観に依存している。

もし時代に左右されず言い得る真理があるとすれば、そのラベルが変わろうとも、その対象となるその実態そのものは、いつの時代も存在しているということではなかろうか。

人間という種のDNAに刻まれている以上消し去ることはできないそれらに対し、ただ「NO」と否定するだけでは目を背けることに他ならない。

著者は極道をモチーフとし、善悪の意味をより深く考えてみることを読み手に促しているのかもしれないと感じるくだりだ。

「罪」とは何か

この他にも、「犯罪」についてひとつの見解が示される。

目黒という速水の舎弟のひとりが亮に公的助成金を利用したシノギを披露する。
亮は「犯罪じゃないですか」と意気込むが、目黒は「犯罪は裁判で有罪が確定したもの」「ばれんかったら犯罪やない」、犯罪の定義とはそういうもんと話す。

実際に権力や財力がある者たちはここを利用しているわけで、ヤクザとやっていることに違いはないのかもしれない。
その行為自体は褒められたものではないがそれが現実だ。
目黒はこの会話を最後にこう締めくくる。

「無知だということは、それだけで損をする。それが大人の社会だ」

良い悪いを言うのは自由だが実際にそうだという側面は事実としてあるだろう。
亮は少しずつ成長していく。

「俠道」とは

金光の件がこじれ、ある時亮は速水総業のさらに上部組織の組長である大内という老人と対面する。

金光が殺られるのを見たか、と問うたあと、老人は「日本武術神妙記」という昔の武芸者の記録を集めた本の一節を語る。

その昔、非常に短い脇差しをさした侍がおり、十二、三になる武士の子供がそれを指して、耳かきのようだとからかう。

あるとき侍はその子供を膝の上に乗せ、「耳かきのような脇差しがお前の腹に通るか見ろ」と腹に刃を突き立て軽く脅す。

その子は少しも驚かず、「腹に通り申さぬ」と言いつつ自分の長い脇差しを抜き、自分の腹ごと後ろの侍を刺し貫いた。

「馬鹿馬鹿しい、なんの意味もない死に方や。しかしーー」
「それが侍の、ひいては侠道のありかたやと思う」

と老人は締めくくる。

この国にかつて、たしかに存在したであろうこの種の死生観に初めて興味を抱くこととなった。

「すじぼり」のこと

物語半ばに本作のハイライトがある。

本作のタイトルは「すじぼり」。

色や模様を入れる前の線だけの刺青のこと。

亮と仲良くなった速水の舎弟の松原は、速水が襲撃を受けたとき、その身を投げ出し速水を守ったが彼自身命を落としてしまう。

亮と年が近く一度は亮の命を救ってくれた若き極道の死は、彼の心に拭えない深いキズを残す。

彼は考える。
平凡と思っていた自分に激しい復讐心があることに気づく。
そして松原の死は自分にも責任があることが亮を深く悩ませる。

一歩前に踏み出すためのキッカケとして彼は刺青を入れようと思い立つ。

若気の至り、浅はか、一生の後悔など、少なくともこの国の社会においてはネガティブな意見が多くある行為だろう。

10年以上前、私がある彫師に聞かされた話。
アルタイの人々の祖先は、文明が進化するにつれ、本来自然界の一員であった自分たちが、その記憶が薄れていくことに危機感をいだく。

人間は忘れる生き物だ。
ときにとても大切なことであっても。

彼らは忘れてはならないこととして自然界の生物をその身体に「刺青」として刻み込むようになったという。

この話しは私の心身に刻まれることとなった。

先にも書いたが人間は忘れやすい。
痛みが伴うことで記憶に深く刻み込まれるということは実際にあるだろう。
それを人為的に行うことも一理あると言えないだろうか。

仮に衝動であろうとも、亮のその行為は、若くして体験した身近な死を、生きている限り忘れることなく考え続けるキッカケを与えてくれるモノになるのではないか。

一生の後悔になるかどうかは墨を入れたそのことではなく、その後の生き方次第だと思う。

後半は極道路線まっしぐら

さまざまな教訓に思い悩む少年の物語は、後半薄らいでいく。
組同士の抗争が激しくなりひたすらドンパチが続く。

個人的には若干物足りなくなってしまったのはこの辺りにあるが、本作の背景は先に述べた「Iターン」と通じるものがありその原点として興味深く読むことができた。


著者について

福澤徹三(ふくざわ・てつぞう)
1962年福岡県生まれ。デザイナー、コピーライター、専門学校講師を経て作家活動に入る。著書に第10回大藪春彦賞を受賞した本作の他、『怪談熱』(角川書店)、『アンデッド』『アンデッド憑霊教室』『オトシモノ』(角川ホラー文庫)、『怖い話』(幻冬舎)、『夏の改札口』(徳間書店)、『黒本一平平成怪談実録』(新潮文庫)、『廃屋の幽霊』(双葉文庫)、『死小説』(幻冬舎文庫)、『いわくつき日本怪奇物件』(ハルキ・ホラー文庫)など多数。

すじぼり 福澤徹三 (角川文庫)ー あらすじと感想

※honto・Amazon Kindleどちらも電子書籍版あります。

あらすじ

広告代理店の冴えない営業マン・狛江が単身赴任したのは、リストラ対象の北九州支店。思わぬトラブルでやくざに絡まれ、大借金のうえ身売りの大ピンチに。鉄拳の雨と禁断のレバ刺し、爆弾を抱えたダイ・ハードな日常。生き地獄に陥った男のI(=自分)ターンとは!? 血圧上昇、リーマン・ノワールの傑作! 解説・木内昇

読書感想

読みどころ

  • 暴力・恐喝なんでもござれの修羅の国「北九州」。この町の真実がいま明かされる。
  • 会社では同期入社の上司にいいように使われ家庭ではATM扱い。悲哀に満ちた中年サラリーマンが主人公。
  • 極道と堅気、実際にあこぎなのはどっち?などいろいろ考えさせられる人間模様。仁義をとおす中年リーマンによる痛快逆転劇。

リーマンはつらいよ

主人公は「狛江」というサラリーマン。2人の子供と妻がいる。
絶賛下降気味の広告代理店で働く彼の肩には住宅ローンと養育費が重くのしかかる。

会社の上司(副社長の娘との結婚で出世した同期)にはいいようにこき使われ、家庭では薄くなった頭を指してザビエル呼ばわりされるATM。哀愁ただよう47歳だ。

とくに取り柄のない彼は下火の会社になんとかしがみついて来たが、とうとう左遷の辞令が下される。

社員は自分を含めて3人のみ。
閉鎖目前の地方支店長というなんの旨みもない役職。
そして勤務地は修羅の国「北九州」。

成人の日には絶滅危惧となりつつあるヤンキーの方々が全国中継され、ネットでは「治安悪い」「キケン」といったキーワードが検索候補にあがることでお馴染みの土地だ。

そして本書のタイトルは「Iターン」。
逝って来いである。

どんな感じかはカバーイラストがすべてを物語っている。

Iターン 福澤徹三(文春文庫)カバー
出典:Iターン 福澤徹三(文春文庫)

カバーイラストと作品内容のシンクロ率が200%超え。

そして北九州がどんな場所であるのか。

それはこの地出である著者の写真をご覧頂くのがいちばんだ。

著者近影
出典:福澤徹三 『ジューン・ブラッド』特設サイト|Webマガジン幻冬舎

「あんたが持つのはペンじゃなくてドスだろう!」とツッコみたくなる男前。

この2枚の画像で作品の世界観はお判りいただけたのではないか。
※注 ドス…鍔の無い日本刀

狛江(47)という男、修羅の地でカモられる

彼は放り投げた缶のはね返る先から人生の大一番の決断までありとあらゆるレベルで裏目を引く男だ。

「なぜそっち!?」という具合に宝くじが毎日当選する勢いで針の穴を突くようなマイナスを見事に引き当てる。

小心で妻に言われて酒もタバコもやめ一見マジメそうだが何をやるにも度胸がないだけとも言える。

極道の方々

北九州の雰囲気は著者近影でお分かりいただいたと思うが狛江は転勤してすぐにそんな町のあまり法律を気にかけない方々の洗礼を受ける。

物語始まってすぐにサクッと借金600万円の多重債務者となる。

発端は支店の顧客である街金の広告でトラブルを起こしたこと。そして、そこは不運にも「竜崎」という企業舎弟が経営する会社だった。
この男はインテリヤクザといった風情で初めからどうにも好かない。

そして更に狛江はダイソン並みの吸引力で不運を引き寄せる。竜崎と反目するグループも巻き込んでしまうのだ。

そのグループは「岩切」という粗暴で威圧的だが昔ながらの仁義を重んじる男が仕切る組織である。

狛江はこの2つのグループに相当理不尽なやり口で借金を負わされてしまい、返済のため無理やり岩切の舎弟にされる。

近頃は副業OKの会社も増えたと聞くが彼の場合は「週末ヤクザ」だ。

西尾が作品に深みを与える

そして登場したヤクザで特にお気に入りだったのは(お気に入りのヤクザってなんだ?)「西尾」という岩切の補佐役である。

有名私大卒という異色の経歴を持つこの若者は知識も豊富だ。

返済目途が立たない当初、狛江は岩切にベーリング海峡のカニ漁をする船にぶち込まれそうになる。西尾はすかさず「ベーリング海峡は低気圧の墓場って呼ばれているそうです」と、何の役にも立たない嬉しくない情報をそっと耳打ちしてくる。

そんなお茶目な西尾だが、彼は時にこちらがハッとなるセリフをつぶやく。
「そもそも、他人に迷惑をかけていない人間なんか存在しません。迷惑をかけていないと思いこんでいる人間はたくさんいますが」
「彼らの正義とは、単に多数派に便乗することです。あるいは、自分よりいい思いをしていそうな者への嫉妬です。自分が逆の立場だったら、やらざるを得ないことに想像力がおよばないひとたちです」
「ここに悪い奴がいるって、看板をあげてたほうが健全なんですが」
この若き極道は冷静に社会を見つめている。

彼との対話を通じて狛江は極道の世界に対し、ある意味理解を示し始める。

筋を通せば道は開ける

ドタバタとサラリーマンとしても舎弟としても未熟な狛江だが、岩切や彼の子分たちと修羅場をくぐり抜けていくたびに少しずつ変わっていく。

当初なにもかも気に入らなかったこの町にも慣れていった。
苦手だったとんこつラーメンも、岩切とカチコミをしたあとの一杯では「うまい!」と叫ぶ。

この叫びは、北九州という町、極道の世界、そしてサラリーマン狛江がみごとにバランスする瞬間を示しているように感じた。

47歳で修羅の国に立たされヤクザにもまれる人生なんて実際どうかとは思うのだが、それでひと周りもふた周りも大きくなった狛江の姿には胸がスッとした。

と同時に意識的にではなく偶然に負うところもあったが結果として筋を通した狛江は偉いなと思う。そして、そういう人間たちに拍手を送る物語構成もまたよかった。

これはそのまま著者による社会に対する目線なのかもしれない。

久々にスカッとする気持ちのよい作品だった。

著者について

福澤徹三(ふくざわ・てつぞう)
1962年福岡県北九州市生まれ。デザイナー、コピーライター、専門学校講師を経て、作家活動に入る。『すじぼり』(角川書店刊)で第10回大藪春彦賞を受賞。近作に『ジューン・ブラッド』(幻冬舎刊)、『俺たちに偏差値はない。ガチバカ高校リターンズ』(徳間書店刊)など。怪談にも造詣が深く、『会談実話 盛り塩のある家』(メディアファクトリー刊)など多数の著書がある。

Iターン 福澤徹三 (文春文庫)ー あらすじと感想